第1節 農林漁業者等による体験活動の促進
我が国の令和元(2019)年度の食料自給率は、カロリーベースで38%、生産額ベースで66%であり、食料及び飼料等の多くを海外からの輸入に頼っています。我が国の農業・農村をめぐる状況として、農業者の一層の高齢化と減少が急速に進み、農業の生産基盤の脆弱化や地域コミュニティの衰退が生じていることに加え、大規模自然災害が頻発しています。また、国際的な食料需給をめぐる状況として、世界の人口増加や経済発展に伴う食料需要の増加、気候変動や家畜疾病等の発生などにより、我が国の食料の安定供給に関するリスクは顕在化しています。このような中、「食料・農業・農村基本計画」(令和2(2020)年3月31日閣議決定)において、「国民が普段の食生活を通じて農業・農村を意識する機会が減少しつつあることから、できるだけ多くの国民が、我が国の食料・農業・農村の持つ役割や食料自給率向上の意義を理解する機会を持ち、自らの課題として将来を考え、それぞれの立場から主体的に支え合う行動を引き出していくことが重要」と記載されています。農林水産省では、消費者が農業・農村を知り、触れる機会を拡大するために、生産者と消費者との交流の促進、地産地消の推進等、様々な施策を講じています。その一つとして、食や農林水産業への理解の増進を図るために、農林漁業者等による農林漁業に関する体験の取組を推進しています。
教育ファームなどの農林漁業体験は、自然と向き合いながら仕事をする農林漁業者が生産現場等に消費者を招き、一連の農作業等の体験機会を提供する取組です。自然の恩恵を感じるとともに、食に関わる人々の活動の重要性と地域農林水産物に対する理解の向上や、健全な食生活への意識の向上など、様々な効果が期待されます。
例えば、消費者に酪農のことを理解してもらいたいという酪農家の願いと、酪農体験を通じて子供たちに食や生命の大切さを学ばせたいという教育関係者の期待が一致し、各地で酪農教育ファームの取組が行われています。新型コロナウイルス感染症の予防対策を講じつつ、受入れ可能な牧場においては、子供たちが訪問先の牧場において、乳牛との触れ合い、餌やりや掃除といった牛の世話などの酪農体験の学習を行っています。
また、減少する都市農地にあっては、代々続く農家において、種まきから収穫に至る一連の農業体験とともに、大鍋で汁物を調理してみんなで食べるなど、地域のコミュニケーションの場を提供する取組もあります。このほか、漁業体験では、子供たちが定置網漁業体験をするとともに、食品関連企業と連携して、捕れた水産物を加工・調理し、販売するまでを体験できる取組を行い、林業体験では農業協同組合と森林組合等が連携して、就学前児童を対象に地元産の檜(ひのき)と椿(つばき)油を使って「マイ箸作り体験」を行うなど、農林水産業の様々な分野で関係者が連携しながら体験活動を進めています。このような体験活動の参加者からは、「農林水産業の楽しさ、面白さ、大変さ、自然環境の大切さを学び、食に対する考え方が変わった」などの感想が寄せられ、農林水産業の良き理解者となっていることがうかがわれます。
農林水産省は、これらの取組を広く普及するため、教育ファームなどの農林漁業体験活動への交付金による支援のほか、どこでどのような体験ができるかについて、情報を一元化した「教育ファーム等の全国農林漁業体験スポット一覧」、タイムリーな情報を発信する「食育メールマガジン」等を提供しています。
事例:第2のふるさとで食の大切さを学ぶ~南島原市(みなみしまばらし)農林漁業体験民泊~
(第4回食育活動表彰農林水産大臣賞受賞)
南島原(みなみしまばら)ひまわり村(長崎県)
南島原市(みなみしまばらし)は、長崎県の南部、島原半島の南部に位置し、温暖な気候に恵まれた農業生産の盛んな地域です。平成21(2009)年度から8軒の専業農家を中心に農林漁業体験を含む民泊を始めたところ、賛同する農林漁業者が増え、平成25(2013)年3月に、南島原市(みなみしまばらし)の魅力を伝えること、受入れ家庭の連携を強化することを目的とした「南島原(みなみしまばら)ひまわり村」を設立しました。現在、約160軒が所属し、国内外の修学旅行生を中心に受入れを行っています。
参加者は、各受入れ家庭の家業である農林漁業を体験し、自分で収穫した野菜や地元で採れた食材を一緒に調理し、食卓を囲むことによって、親睦を深めつつ、食の楽しさや家族の大切さを体感します。海外からの参加者は日本の伝統的な食文化、無農薬栽培や有機農業等についても学ぶことができます。野菜の種まきや手入れ、収穫、漁で使う網の手入れ、養殖魚の餌やり、調理など、食べ物が食卓に並ぶまでの様々な過程を体験することで、子供たちの食に対する知識や理解を深め、食に対する好奇心を高められるよう工夫しています。
定期的に受入れ家庭同士で意見交換を行う機会を設け、各家庭で気付いた注意点や改善すべき点を共有し、同等の受入れができるようにしているほか、年に1回の衛生講習会への参加を義務付けており、食中毒や調理の際に注意すべき点について確認する機会を設けています。また、アレルギー対応の講習会や救命救急等に関する講習会も開催しています。さらに、料理教室の開催、受入れ家庭同士の食事レシピの共有も行っており、食事メニューが多様化するだけでなく、受入れ家庭にとっても食への関心を高める機会となっています。
1泊2日の体験民泊は、食の大切さ・有り難さを参加者、受入れ家庭が共有することによって、双方にとって有意義で充実した取組になっており、リピーターを増やす結果につながっています。新型コロナウイルス感染症対策ガイドラインを策定するなど、「ウィズコロナ時代」に対応した受入れ体制の整備を図り、今後も子供たちに食を支える1次産業の重要性や家族の大切さを伝えていきます。
事例:「給食センター1品運動」で気付く地域の魅力
島根県松江市(まつえし)
松江市(まつえし)では、地域に根ざした食育を推進するため、平成20(2008)年度から「給食センター1品運動」に取り組んでいます。「給食センター1品運動」は、市内9つの学校給食施設(給食センター)ごとに、生産者等の指導の下、児童生徒が栽培・収穫した野菜を給食の食材として使用するとともに、生産者との交流給食や調理実習を行う取組です。令和元(2019)年度は、11の小中学校が取り組みました。
児童生徒が栽培する野菜の品目は学校により異なります。ごぼう、大根、さつまいも、キャベツの種まきや苗植え及び収穫を体験し、うち7校では、指導していただいた生産者等と児童生徒との交流給食を実施し、1校では、生産者とともにごぼうを使った調理実習を行いました。
この取組では、児童生徒が、食生活が生産者等の食に携わる人々の様々な活動に支えられていることに気付き、食に対する理解を深めることと、農業体験を通じて地域の農業を理解することで、地産地消の推進を図ることを目的としています。
児童生徒は、生き生きと農業体験に取り組み、生産者の苦労や喜びを感じ、地元食材に関心を持つきっかけともなっています。自分たちが手がけた野菜が使われた給食の日は、給食のおいしさがより増し、残さず食べようとする姿がみられます。交流給食では、生産者に感謝の気持ちなどを直接伝えることができる有意義な機会となっています。
また、調理実習では、収穫した野菜と合わせて、地元産の米や野菜、みそ等を使うことで、地元の特産物をもっと知りたいという意識につながっています。
さらに、普及活動として、学校給食の献立だよりを活用して家庭へ情報発信するほか、市役所ロビーにおいて農業体験時の写真や給食献立レシピを展示するなど、広く市民に活動を紹介しています。
令和2(2020)年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、「給食センター1品運動」の活動はほぼ休止となりましたが、今後も地域とのつながりを大切にした食育活動に取り組んでいきたいと考えています。
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